JFA DREAM 夢があるから強くなる










「日本人は背が低いからだめなのか?」

インタビュアー:山本昌邦

構成:田村修一

週刊文春2007年7月12日号より

山本「オシムさんのチーム作りは、ずっと注目していました。練習も凄く刺激があって、出来る限り見に行くようにしているのですが、オシムさんは『記者席じゃなくてこっちで見ろ』と言ってくれる」

オシム「山本さんは味方ですから(笑)。少なくとも敵ではない」

山本「そこで今日は、いろいろと伺いたいのですが」

オシム「サッカーの話をしても、普通の人は頭が痛くはならないけれども、監督は頭が痛くなる(笑)」

山本「まず新しい選手たちとチームのベースをしっかりと作り、そのうえで海外組を合流させた。着実に一段ずつ階段を上がっている感じがします。面白いのは、指導の際に選手に答えを言わないことです。練習でもいろいろな状況を作って、その中で選手が必死に考えている。チームも選手も、こうやって伸びていくのだろうなと思います」

オシム「大切なのは、トレーニングのやり方云々ではなくて、日本のサッカーがどういう方向に進んでいるのかということです」

山本「そうですね。例えばオシムさんは、スピードを重視してワンタッチプレーを強調している。実は2006年ワールドカップに出場した32カ国中、日本はかなりワンタッチ比率が低かった。それが今は凄くあがって、大会上位国のレベルにまで近づいている」

オシム「ワンタッチパスの利点は、第一に相手の脚の重心を違う方向に向けさせる。そのうえでポジションミスを誘い、こちらはスピードアップを図れる。第二にアグレッシブなプレーをするチームは、選手ひとりひとりがボールを持てる時間が短い。必然的にワンタッチプレーの機会が増えます。そして第三に、これが最も重要ですが、技術のある選手は、相手と同数でプレーしているときに、ワンタッチプレーを交えれば味方がひとりフリーになることを理解している。だからいい選手は、メッシもロナウジーニョもジダンも、相手ディフェンダーが近くにいるときはワンタッチです」

山本「Jリーグでも最近ワンタッチが増えてきたけれども、そうする必要がない場合にもやっていることも多い。相手に読まれていても、ワンタッチでそこに出してしまう」

オシム「ワンタッチをジャーナリストが必要以上に褒めるから(笑)。大切なのはタイミングを計る感覚です。いい選手はその判断が速い。逆に「ああ、しまった」と思ったときはもう遅い」

山本「動きながらの技術をどう教えるかですね」

オシム「日本のサッカーで感じるのは、日本人選手が本来持っているクオリティが、十分活用されていないことです。他国のスタイルを真似て、イミテーションを作ろうとするのは時間のムダではないか。たとえ出来上がってもそれはイミテーションに過ぎないうえに、サッカーにも流行りすたりはありますから、時代遅れになっているかもしれない。
 もうひとつはスター選手を過度に崇拝する傾向があることです。スターが大事にされすぎると、集団としてのプレーに支障をきたす。チームのために死ぬ(献身する)選手が生まれないからです。スターとは他の選手の手本になるべき存在であって、技術はもちろん鍛錬などさまざまな分野で優れている選手のことをいう。ところが日本では、スターのために他の選手が献身し犠牲となる。そういう風に捉えられている」

山本「それは選手自身よりも、彼らをちやほやするメディアの問題ですね」

オシム「メディアを言い負かそうというつもりはありません。メディアに勝てるとは思っていませんから。でも理解はして欲しい」

山本「サッカーという競技そのものをですか?」

オシム「そう。サポーターをはじめ、見る側のレベルをいかに上げるか。それがないと、裾野が広がっていかない。そして観客が理解を深めれば、サッカーそのものも良くなっていく。 先日、あるドクターに「いいドクターとは?」と訊かれて、「サッカーの経験があるドクターだ」と答えました。高いレベルの選手経験があればさらにいい。レフェリーも通訳もすべてそうです。今はサッカーに深く係わっていない人がサッカーを職業にしている」

山本「育成にしても、スピードアップした中での技術をどうやって教えていくか」

オシム「ヨーロッパからもコーチがきていますが、若い年代を教えているのはすべて日本人コーチですね。ヨーロッパ人ではない」

山本「そこにひとつの鍵がある」

オシム「子供のときにやっていいことと、やらないほうがいいことの両方がある。重要なのはサッカーというゲームを、子供が肌で理解することです。それにはただ漫然とプレーするだけでは駄目で、何故ここでこういうプレーをしなければいけないかを分からせる。それぞれのプレーにはタイミングと目的があります。また若いうちに、速いプレーとは何か、どうして速いプレーがいいのかを、感覚で覚えさせる。そういう訓練や教育が必要で、去年の同じ年代よりも、今年のほうがうまくなるように努力していけばいいんです」

山本「なるほど」

オシム「次に難しいのは選手の選抜です。子供はそれぞれ能力が違う。才能が豊かな子もいれば、そうでない子もいる。それを一緒にして同じ事を教えても……」