JFA DREAM 夢があるから強くなる










「日本人は背が低いからだめなのか?」

インタビュアー:山本昌邦

構成:田村修一

週刊文春2007年7月12日号より

山本「日本の文化ですね。みんな平等みたいな」

オシム「そのときに才能豊かな子供から、そうでない子供へ影響が及ぶかというと、多くの場合はその逆です。すると才能豊かな子供も、大人になる手前の17歳ぐらいの段階で、そうでない子供と同じレベルに落ちてしまい、伸び悩んでプロにはなれない。子供の教育は、その子が将来どうなるか、明日、あるいは来年どういう子供になるかを、予測できる目を持つ人間がおこなうべきです」

山本「それには相当の経験が要ります。簡単ではない」

オシム「たしかに難しい。一概にこうと決め付けられるものではないですから」

山本「しかも子供のうちに将来の判断をする危険性もある」

オシム「そう。プロになれるかどうかを決めてしまうには危険すぎる年齢です。子供はあくまで子供であって、サッカーだけで生きているわけではない。社会常識を身につけることがまず第一で、サッカーはそれから先です。社会教育とサッカーの両方を教えられるコーチが最高です」

山本「フィジカル、つまり成長の問題も大きいですね」

オシム「たしかにヨーロッパでは、祖父や曽祖父の代にまで遡って体格を調査したり、骨密度を測定して成長を医学的に判断したりしています」

山本「日本もやがてそうなると思います」

オシム「ただし今は背の高いフォワードが流行ですが、数年後には別のタイプ、例えば速いフォワードのほうが価値が高くなっているかもしれない。それは誰にもわからない」

山本「今の子供たちが大人になったときに、サッカーがどうなっているかをある程度予測する必要がある」

オシム「少なくとも今言えることは、ユニバーサルな能力を持った選手が必要になる。つまりひとつの能力に秀でているよりも、身体や状況の違いに関係なく高い技術を発揮してさまざまな役割をこなすことができる選手です」

山本「ポジションでいえばストライカーとセンターバック、それにゴールキーパー。この三つが、日本の弱い部分だと思っています」

オシム「弱さは他のもので補えばいい。日本では失点をすると、すべてはゴールキーパーの責任のように言われる。ならば日本にはいいキーパーはいないのか。そうではないでしょう。責任がどこにあるのかを、もっと厳密に分析しなければいけない。他に本当の原因があることを理解すれば、背が低いキーパーも自信を持ってプレーができる。
ヨーロッパには日本人と体格はさほど違わなくとも優れたキーパーがいます。彼らは大きくはないが速い。前に出るスピードと判断が速いんです。高さだけがすべてではない。
 逆にいえば日本人は、背が低いからサッカーはダメだということにはならない。体格の話をすることをまず止めましょう。それからいい面を見ましょう。つまり運動能力とスピードです。日本人の持つスピード、敏捷性をどうやって生かすか。予測の力と結びつけて、どうやって素早いプレーを高めていくか。そう考えて自分たちの特長を伸ばしていくべきです」

山本「話を聞いていると、日本の目指す方向が見えてきます」

オシム「日本人はもっと自分自身を理解すべきです。ファビオ・カンナバーロ(2006年欧州最優秀選手)は、センターバックでも決して背が高くない。でも彼は世界最高のディフェンダーでしょう」

山本「スピードと技術の大切さはよくわかりました」

オシム「日本サッカー最大の問題はテクニックだと思います。日本人はテクニックがあるといわれていますが、それは見世物としてのテクニックでしかない」

山本「曲芸と同じで、実践では役に立たない」

オシム「ボールを奪ったディフェンダーが、速く正確にパスできなければ、何も始まらないんです。そのとき大事なのは予測能力で、次にポジションを判断する能力です。相手のポジションと自分のポジション。それがうまく合ったときに、いい体勢でボールが奪える。そして味方のポジションを予め見ておけば、インターセプトした瞬間には、どこにパスを出せばいいかの判断が出来ているわけです。しかし日本のストッパーは、取った、さてと言って前を見る、味方を探す……」

山本「守備をしながら攻撃のことを考えている、そういう選手でなければ」

オシム「その通りです。そういうテクニックが日本は不足している。その意味でのサッカー理解が、選手はもちろんメディアも観客も出来ていない。スペクタクルの意味をはき違えていて、観客に受けるプレーとチームにとって有効なプレーが違っている」

山本「ではこれからは、インターセプトを一番している選手や、セカンドボールをよく拾う選手を評価するようにしないと」

オシム「それもまた日本的な発想で、それらは何も表彰されるようなことではなく、ディフェンダーとして当然のプレーなんです。表彰しなければできないようでは、まだまだ進歩が足りないわけです」

山本「なるほど」

オシム「進歩に終わりはありません。改善の可能性は常にあって理想が実現することなどあり得ない。サッカーの場合は特にそうです」