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国際交流・支援活動

【海外赴任レポート】 シンガポール 影山 雅永さん 2008年7月

【プロフィール】

影山 雅永(かげやま まさなが)

福島県いわき市出身。1967年5月23日生まれ。
筑波大学卒業後、当時のJSL(日本サッカーリーグ)、古河電気工業を経てJEFユナイテッド市原(現ジェフ千葉)、浦和レッズ、ブランメル仙台(現ベガルタ仙台)でプロサッカー選手生活を過ごす。その後、日本代表テクニカルスタッフ、筑波大学大学院体育研究科修了、ドイツ留学を経て、サンフレッチェ広島トップチームコーチ。2006年からマカオ代表監督(U-18監督兼任)兼テクニカルダイレクター。
2008年、指導の場をシンガポールに移し、U-16代表を率いて10月にウズベキスタンで行われるAFC U-16選手権(FIFA U-17ワールドカップアジア最終予選)に向けてチームの強化を行っている。公認A級コーチ。AFCプロフェッショナルディプロマライセンス。


~派遣国・地域の紹介 : シンガポール共和国~
マレー半島南端のマレーシアに隣接し、シンガポール本島と63の島からなる。気候は、赤道に近いため、1年を通して雨が多い。比較的気温の変動が小さく、多湿(日中の平均気温は26.8度)。面積は699平方キロメートル(東京23区とほぼ同じ)で、人口は約448万人。中華系(75.2%)、マレー系(13.6%)、インド系(8.8%)、その他(2.4%)の民族が暮らし、英語、中国語、マレー語(国語)、タミール語が公用語として用いられている(以上、在京シンガポール大使館、外務省ホームページより)。
FIFAランキングは127位(2008年7月現在)。



1.紹介

 Fine Country…シンガポールを表現するときによく用いられる言葉です。Fine…「すばらしい」、「きれいな」というのが元々の意味ですが、もう一つの意味は、Fine…「罰金」です。

訪れたことのある人ならばなんとなく想像がつくでしょうが、きれいな国を維持するために、シンガポールではさまざまな罰金によって人々を管理しているのです。さまざまな人種、中国系、マレー系、インド系、そして各外国から移住してきた人々。これらのシンガポール国民をまとめるのには、このような厳しい罰金や法律、規則で縛ることが必要だったのでしょう。細かなオーガナイズ、さまざまな制約、これらを含めて人々は「Fine」と呼んでいるようです。

サッカーにおいても指導者養成、ユース育成など、積極的に取り組んでいる国の一つで、代表チームは2010 FIFAワールドカップアジア予選において、3次予選まで進出する快挙を見せました。

2.U-16代表チーム

 私の働いているシンガポールサッカー協会は、総勢40名ほど。それぞれの部署でシステマチックに仕事が行われているのはシンガポールらしいところでしょう。その中にアカデミーと呼ばれるユース育成の部署、NFA(National Football Academy)があり、U-15からU-18までの代表チームを持っています。その中のU-16代表が、私が指導しているチームで、昨年のAFC U-16選手権1次予選を勝ち抜き、今年のAFC U-16選手権本大会(ウズベキスタン/FIFA U-17ワールドカップアジア最終予選)に参加するチームです。彼らの多くは国立のシンガポールスポーツスクールに通っており、そこで寝食を共にしています。他の選手たちは他の公立学校からの選手たちで、25名のうち、マレー系が70%、残りの30%が中国系とインド系です。選手リストの中に生年月日やパスポートナンバーとともに、Race(人種)の欄があるのもシンガポールならではでしょう。毎日一つのチームとしてトレーニングを行っており、国内のU-18リーグにもこのチームで参加しています。シンガポールの選手たちの特徴は、最低限のスキルを持っている。フィジカルレベルも悪くはない。そして何よりも規律がある、といったところでしょうか。

 マカオで仕事をしていた当時、AFC U-19/U-16選手権においてシンガポールのU-18、U-15と同じグループだったということもあり、彼らに対するある程度のイメージを持つことができました。そしてシンガポール赴任当時、試合や練習を見ることに徹していた私は、このままのプレースタイルではアジアで競争することはできない、10月までには十分な時間がある、などの理由から、根本的なコンセプトを変えるべく、プログラムを組みました。当初は怪我人の続出、筋力トレーニング開始によるコンディションの低下、プレースタイルへの不適応などが重なり、パフォーマンス、結果がついてこないことから、選手が私への信頼を失い、不穏な空気の中でのトレーニングが続きましたが、ここに来てようやくそれらしいサッカーになってきています。今だから言えますが、当時は自分の信念を貫くか、選手たちの意見になびくのか、どこでバランスを取り、信頼を回復するかで相当悩んだことを思い出します。シンガポールの子たちは、自分の意見、感情をストレートに表現することが日本の子たちよりも強いようです。

3.様々な困難

 国内では日本のアルビレックス新潟も参加しているプロリーグ「Sリーグ」を筆頭に、U-18、U-16、そして学校対抗のリーグなどが整備されています。しかし、U-12レベルでの指導体制が整っていないため、基本的なスキルを身につけないまま育ってきている子がほとんどです。その結果、そのような基礎を抜きにした、結果だけを求めるサッカーに終始している感が否めません。

 具体的には、「観る」、「判断する」、そして「必要な技術を発揮する」というプロセスができない子がほとんどなのです。そのような欠落している部分をU-16代表チームのトレーニングの中で補いながら、チームとしての指導を行わざるを得ない中で、日本で行われている普及、育成全体のピラミッドの中で次のレベルに選手を送っていくというシステムの重要性、特にゴールデンエイジにおけるスキルの習得がいかに後にとって大事なのかを痛感しています。

 そのような選手たちを率いて、現在トレーニングに励み、最高の状態でウズベキスタンに乗り込みたいところですが、問題は山積です。能力のある子を代表選手として選ぶことができない可能性が高いからです。いまや、シンガポールはアジア、そして世界においても先進国の一つですが、歴史の中において彼らが導き出した解答は、小国のシンガポールにとっては優れた頭脳を生み出すことこそが唯一の道であるということでした。

 16歳の私の選手たちは、Secondary Schoolの最終学年。彼らは10月にO-Level、N-levelと呼ばれる国家試験を受験しなければならないのです。この試験を放棄すると次のチャンスは来年…。現在、教育委員会、各学校と折衝を続けていますが10月にはどんな答えが出ているのでしょう…。

 さらにはAFC U-16選手権の前月、9月はムスリムのラマダンの時期。わがチームの大多数を占めるマレーの選手は、1カ月間、太陽が出ている間は水さえも口にすることを許されません。せっかく つくり上げたコンディションもこれでは大きな打撃を受けてしまいます。栄養面からのサポート、そして海外キャンプなどを含めて対策を練っているところです。

AFC U-16選手権では、ホスト国のウズベキスタン、イラン、バーレーンという強国と一緒のグループになったわれわれU-16シンガポール代表チーム。彼らの長所を生かすべくチームづくりを行って いますが、チームづくり以前に、ピッチ以外の部分の理解が他の国での指導においては非常に重要となります。すべてに納得はせず、改善のために努力する。しかし押し過ぎるとすべてを失う可能性があるので情勢を理解しつつ話し合う。このオフ・ザ・ボールにおける1対1のような駆け引きは、マカオでの経験により分かっていたはずでしたが、所違えば諸問題も変わる。ここはFine-Country、シンガポールなのでした。