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2013.03.08
第5回 「リスペクト=大切に思うこと」をあらゆる行動の基盤に

リスペクトF.C.ジャパン 会長 大仁邦彌

今日は、リスペクトF.C. JAPAN会長としてこのステイトメントを書きたいと思います。

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FIFAフェアプレー賞16回の栄誉

 1964年の東京オリンピックと68年のメキシコオリンピックで日本代表のコーチを務めたデッドマール・クラマーさん(ドイツ)をご存じでしょうか。"日本サッカーの父"と言われるクラマーさんは、川淵三郎キャプテンら当時の日本代表選手にサッカーの技術指導だけでなく、規律やフェアプレー精神など、スポーツマンとしての立ち居振る舞いを教えた指導者でした。選手たちには常々、「勝てばいいというのではない。第一にフェアプレー、そして良いプレーをすること、その上で勝利するのが理想だ」と説いていたといいます。当時の日本サッカーはドイツと比べようもないほど低いレベルだったにもかかわらず、選手をリスペクトし、懇切丁寧に指導してくれたそうです。
 日本は1960年から8年間、クラマーさんの指導を受けました。64年の東京オリンピックでベスト8に進出。68年のメキシコオリンピックでは初の銅メダルを獲得し、この年、FIFA(国際サッカー連盟)が新設したフェアプレー賞を受賞する栄誉に浴しました。日本サッカーはその後、なかなか世界の舞台に出ることはできず、2度目の受賞となる95年のFIFAワールドユース(現、U-20ワールドカップ)まで27年を要します。しかし、この大会以降、日本はFIFAのフェアプレー賞を14回(全部で16回)、AFCでは実に36回も受賞しています。
 数々のフェアプレー賞の中で最もインパクトがあったのは、2011年でしょう。
 忘れもしない3月11日。東日本大震災とこれに伴って発生した津波により、東北地方の沿岸部は壊滅的な被害に遭いました。地震から4ヶ月後、U-17日本代表はメキシコでFIFA U-17ワールドカップに出場。この大会で初のベスト8進出を果たした若きサムライたちは、名誉あるFIFAフェアプレー賞を受賞しました。さらに、この1週間後の17日、今度は、なでしこジャパンがFIFA女子ワールドカップを制覇し、しかもフェアプレー賞にも輝くという快挙を達成したのです。

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グッドウィナーとグッドルーザー

 FIFA女子ワールドカップ ドイツで、日本はFIFAの許可を得て試合後に東日本大震災に対する世界からの支援に感謝するバナーを掲げました。
 グループステージで日本が唯一敗戦を喫したイングランド戦の後、イングランドの選手がなでしことともにこの横断幕を持ってスタジアムを一周するという感動的な出来事がありました。被災した日本に対する温かい気持ちに心打たれましたが、そこに、"グッドウィナー(良き勝者)"を見た思いもしました。また、相手の勝利を讃えるとともにその申し出に感謝し、イングランドとともに会場を回ったなでしこジャパンもまた、グッドルーザー(良き敗者)として称されるものだったと思います。

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<試合後、宮間選手とイングランドの選手が抱き合ってお互いの健闘を讃えるシーン>

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 グループ2位で決勝トーナメントに進んだ日本は、準々決勝で強敵ドイツを、準決勝でスウェーデンを破る快進撃を続け、アメリカとの決勝の舞台に立ちました。この決戦で日本はアメリカの猛攻に遭い、2度もリードされる苦しい展開になりますが、決して諦めることなく果敢にチャレンジし、悲願のワールドカップを手にしました。このひたむきなプレーは、震災復興に取り組む日本に勇気や希望を送ることができただけでなく、世界の国々からも大きな共感を呼びました。フェアプレー賞に値する戦いぶりだったと思います。
 試合後―女子の試合ではよく見られる光景ですが―澤穂希選手と宮間あや選手が、敗れたアメリカの選手に駆け寄り、握手で讃え合ったことも印象的なシーンとして脳裏に焼き付いています。
 これに、もう一つ書き添えておきたいことがあります。女子ワールドカップから帰国した翌日、首相官邸を訪れるということで、なでしこジャパンは都内のホテルに集合していました。その時、「たとえ5分でもいいから、なでしこジャパンの選手にお祝いを言いたい」と、アメリカのルース大使がわざわざホテルに来てくださったのです。自国のチームを破った相手に対して心からの祝福を贈る――アメリカという国のスポーツ文化の成熟度というものを痛感した出来事です。

フェアプレーとリスペクトの推進

 FIFAが、加盟する大陸連盟や各国協会に対して大々的にフェアプレーを訴えたのが1988年。日本サッカー協会(JFA)はその翌年にフェアプレーキャンペーンを展開し、チームの監督や指導者、選手、関係者に広くフェアプレーの重要性を呼びかけました。
 93年には、この年に開幕したJリーグに「フェアプレー賞 高円宮杯」を創設しました。JFAの名誉総裁であられた高円宮憲仁殿下は、青少年の育成とフェアプレーに一家言持っておられた方で、この高円宮杯のデザインもご自分で考案されるほどの思いの入れようでした。残念ながら93~96年は該当チームがなく、97年にようやくヴィッセル神戸がこの賞を受賞。その時の高円宮殿下のお喜びようはいかばかりだったかと思います。
 95年にはJFAも、主催するすべての全国大会に「フェアプレー賞」を設けました。97年には「JFAの決心(行動宣言)」と題し、性差や年齢、障害の有無にかかわらずスポーツを楽しむ環境を広げるための行動計画を打ち出します。この翌年には、「JFAサッカー行動規範」を発表し、最善の努力をすること、あらゆる面でフェアな行動を心がけること、ルールの遵守、相手をリスペクトすること、良き勝者・良き敗者であること、仲間を増やすこと、よりよいサッカー環境を広げること、責任を持って行動すること、健全な経済感覚を持つこと、薬物や差別など社会悪に立ち向かうこと、常に感謝と喜びの気持ちを持ってサッカーに関わることという10の指針を掲げ、それらを推進してきました。
 2006年にはU-12年代の大会を対象に、ポジティブなプレーや行為を評価するグリーンカードを採用。2008年にはリスペクトコンテストと題し、U-12の大会を対象に応援者を含むチーム全員のポジティブなパフォーマンスを評価してコンテストの勝者を表彰する制度も導入しました。

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 2009年には「リスペクトプロジェクト」を設置しました。「"リスペクト"はフェアプレーの原点であり、ピッチ上の人、それを支え、とりまく全ての人・ものを互いに"大切に思うこと"」と捉え、Jリーグとともにその啓発活動に力を注ぎます。そして2011年、「リスペクトF.C. JAPAN」を設立。多くの人にこの活動に参加してもらうことでリスペクトのさらなる推進を目指しました。2012年にはJリーグ40クラブの全登録選手が会員に登録。現在では、4000人以上の会員がリスペクトF.C. JAPANのメンバーになっています。

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 先日、元日本代表の平野孝さんとJPFA日本プロサッカー選手会の播戸竜二選手(セレッソ大阪)、石川直宏選手(FC東京)がJFAを訪れた時、「選手側からも"リスペクト"や"フェアプレー"を発信してほしい」と言うと、彼らもそれに力強く賛同してくれました。
 子どもたちの憧れであるトッププレーヤーが模範を示すことで、リスペクトある行為が広く浸透していくことを願っています。

スポーツの価値

 FIFA(国際サッカー連盟)に加盟する国と地域は209で、サッカーの競技人口は約2億7000万人と言われています。これにファン・サポーターなどを入れたら相当の数になります。それだけにサッカーは、国際社会において非常に大きな影響力を持っていると言えます。
 近年、地域社会のつながりや人間関係が希薄になったことで、社会生活をする上で必要な人間性を自然に育める機会や場が非常に少なくなっています。いじめや引きこもり、うつ病の増加といった問題が叫ばれてかなりの月日が経ちますし、最近では、スポーツ指導における暴力行為やパワーハラスメントの問題も大きな社会問題になっています。さらに世界に目を向ければ、違法賭博による八百長問題が深刻化しています。
 各方面から様々な対策が取られていますが、最後のより処になるのが、一人ひとりの道徳観や倫理観だと思います。
 スポーツにはルールがあります。それを守らないと競技は参加できません。そして仲間と手を携え、コミュニケーションを図りながらゲームを組み立てていきます。また、対戦する相手を理解し、ゲームをコントロールしてくれる審判員、指導者やファン・サポーターに対して敬意や感謝の気持ちを持つことも大切なことです。
 そういった中で、向上心やチャレンジ精神、失敗や挫折に負けない強い心が育まれ、また、連帯感や責任感、リーダーシップや犠牲的精神、助け合いや思いやりの心など、社会生活を送る上で欠かせない要素も身につけていきます。つまり、楽しみながら、そういったことを涵養できるところにスポーツの大きな価値があるのです。

 我々サッカー界は、今後も「リスペクト=大切に思うこと」をあらゆる行動の基盤にし、サッカーを通じて多くの人々にその大切さを広め、社会がもっと明るく活気に満ちたものになるよう努力していきます。
 是非、皆さんも「リスペクトF.C. JAPAN」の会員になっていただき、身近なところからこの活動を広めていただければと思っています。ご協力のほど、よろしくお願いします(詳しくはこちら)。