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ウィークリーコラム

 新年度を迎えて2週間が経とうとしています。日本サッカー協会でも、先週日曜にはJFAアカデミー福島で入校式が行われ、新入生21人が新しい生活をスタートさせました。また、JFAこころのプロジェクトも新学期に向けて準備を進めており、今年は400回を目標に全国各地の小学校で「夢の教室」を実施していく計画です。
 読者の皆さんの中にも、新生活に踏み出した方、あるいは昇進してリーダーになった方も多いのではないでしょうか。 今回は、川淵キャプテンがバーレーン戦を振り返りつつ、企業人としての姿勢やリーダー論についてお話しします。

選手個々の判断力とコミュニケーション不足が露呈したバーレーン戦

 3月26日のバーレーンとの試合については3月28日のコラムでも触れましたが、勝とうという気迫が感じられないお粗末な内容でした。前半、ボールがつながらない時間帯が続きましたが、監督の指示がなかったとしても、ボールをつないで日本のリズムをつくろうとしなかったのは、代表選手として不甲斐ないとしか言いようがない。
 選手それぞれが試合の中で自ら判断する、そして、自らの考えをきちんと言葉にして味方に伝え、流れを良い方向に変えていく――この基本の欠落が、今回の試合で露呈したのではないかと思っています。
 監督が目指すサッカーを理解し、それを具現化させることが選手の仕事ですが、しかし、サッカーの場合は、試合に出ている選手個々がプレーの決定権を持つ競技。「ボールを持った者が王様」と言われる通り、ボール保持者は、ドリブル突破、パス、シュートと、その状況に応じて判断し、次のプレーにつなげる。ボールを持っていない残りのプレーヤーは、全体の状況を見つつ、ほかの選手の動きや声、アイコンタクトなどでボールを受け取れる、あるいはボール保持者が次の動きの選択をしやすいように動く。選手がこの権利を放棄してどうするんだと思いますね。これは戦術や采配以前の問題。ベンチの指示を待って次のプレーをするようでは、サッカーとしての体を成さないですよ。もっと能動的でないと。それには、日頃から選手同士が自分の考えをきちんと表現し、コミュニケーションをとっていくことが大事なんですね。

岡田色を表わして当然

 バーレーン戦後のインタビューを見る限り、あたかも監督が悪かったように言う選手もいました。敗因を人のせいにするようでは、日本代表として情けないと言わざるを得ません。
 この敗戦後、岡田監督も「自分のやり方でやる」と明言しましたね。不測の事態で急きょ監督になった岡田としては、オシムさんへの配慮やチームの状態を考え、いきなり岡田色を出すのは得策ではないと考えていた。しかし、「考えて走るサッカー」、「ボールも人も動くサッカー」(オシム前監督)というのは、サッカーの基本中の基本。それは誰が監督になろうと、変わりようがありませんね。そこを覆すようなことは岡田も毛頭考えていない。
 昨年のオーストリア遠征(9月)頃から、オシム監督のサッカーがようやく形となって表れ、次の飛躍を誰もが期待していただけに、新監督としてやりにくい面はあったかと思います。また、岡田監督に対する世間のプレッシャーも相当強かったし、本人の気負いも大きかったでしょう。そこであの敗戦ですからね。相当悔しかったはず。それが、あの言葉に表れていましたね。
 会社なんかもそうですが、新しく就任した上司がいつも前任者のことを気にして、自分の指導力を発揮できないようでは、部下はついてきません。これまでのいいところを引き継ぎながら、その流れの中で自分の色を出していく。それが指導者としての腕のみせどころですよね。
 岡田監督のチームづくりには最低でも1年はかかるでしょう。その中で、ワールドカップ予選を勝ち進まなければいけないので、一戦一戦、厳しい批判にさらされるのは想定内のこと。岡田監督も1998年のワールドカップフランス大会のときと異なり、この10年で経験を積み、世間の期待値も当時よりはるかに大きいだけに、代表監督の厳しさを痛感していると思います。しかし、歴代監督に劣らない指導力を発揮し、チームをつくってくれるはずです。
 とにかく、バーレーン戦の敗因は監督のチームづくり云々の問題ではなく、選手の判断力の甘さ、コミュニケーション不足に起因している。そういう意味では、今の日本代表にリーダーがいないというのが根本的な課題と言えるでしょう。自らの意見をきちんと発言でき、率先垂範でチームに貢献できる選手、仲間の意見を聞きながらチームを牽引する真のリーダー。個人的には、中澤(佑二)とか、鈴木(啓太)、阿部(勇樹)らに期待しているんですけどね、ちょっと、おとなしいな・・・。
 サッカーの場合はチームスポーツですから、黙々とプレーするだけでうまくいくものではない。それに、プレーで声を出し合うというのは勝ちたいという気持ちに比例するもの。次のオマーン戦(6月2日/横浜)では、選手個々が声を出し合い、必勝の構えで戦い抜いてほしいと思っています。

サッカーにも、社会にも、真のリーダーが求められている

 先週のこのコラムで専務理事の田嶋が「言語技術」や「コミュニケーション力」について言及していますが、やはり大事なことですね。サッカーも社会もスピードが要求される時代。組織から信頼を得るにも自ら決断し、良いと思ったことはどんどん提言し、行動に移せる人材が求められています。
 往々にして、その分野に精通していない人が「これ、ちょっとおかしいんじゃないか」と疑問を持ったことって、意外と正しいことが多いんですよ。新社会人として会社勤めを始めた人も多いと思いますが、そういった皆さんが「会社のここがおかしいぞ」、「これ、時代に即していないんじゃないか」なんて思ったことは、臆さず先輩や上司に言ってみたらいい。日本は得てして前例踏襲に走りがちな社会。特に長く同じ会社で働いていると、前例に従う方が安心だし、楽なので、そうなっちゃうんですよ。だから、常に問題意識を持ち続けるのが大事だと思います。発言することで事態は変わっていくし、悪しき前例を打ち砕くことにもなる。
 とはいっても、闇雲に主張しているだけではダメですよ。自分が正しいと思っていても、組織が決めたことはそれに従い、全力でそれに向かって取り組まないといけない。そこを履き違えてはいけません。
 一方、リーダーとなる先輩や上司も、組織の方向性をきっちりと言葉と行動で示せる人材でないと・・・。カリスマ性や存在感、威圧感があって、黙っていても人がついていくという人物も中にはいます。しかし、寡黙なリーダーは出にくい社会になってきましたし、それでは社員が成長するのに時間がかかってしまう。
 やはり、言葉と行動、コミュニケーション力は大事。優秀なメンバーが揃っていても、それぞれがてんでばらばらな動きをしていたら、何の成果も実績も上げられません。ぶれない軸を持ち、求心力をもってスタッフを動かせるリーダーシップ。それと、内外の意見に耳を傾ける真摯さと包容力も必要ですね。
 社会に向けて発言できるトップの存在は、社員のプライドを育むものです。リーダーたる者はそういったことを意識して社会に発信できる人にならないといけないと思います。

IT社会だからこそ、意識してコミュニケーションをとろう

 近年、パソコンや携帯電話の進歩と普及によって、組織の中でのコミュニケーションも希薄になっています。会社でも隣の同僚にメールで意見したりしているようなことが、どこの会社にもあるのではないでしょうか。特に、いやな知らせや反対意見、不満などを伝えたり、叱責する時などは、直接伝えることが大事です。
 また、携帯電話の普及によって自分で判断するという能力も低下しているような気がします。深夜でも休日でも、くだらない用事で電話をかけて判断を仰ぐようなことが結構多い。「そんなこと、自分で考えろ!」と言うことが増えたような気がします。
 企業人として有能かどうかは、大事なこととそうでないこと、報告すべきこととそうでないこと、それをきっちり分けられるかどうかで決まります。サッカーもしかり、組織もしかり、自ら判断する力を持ち、それを目的達成や組織全体の成果につなげる。それが重要ですね。
 上司もそう。大事なことは直接言う。私がサラリーマン時代、出向の辞令を直属の上司が私に直接言わず、たまたまゴルフしているところで別の上司から言われたことがある。あとで直属の上司に聞くと「言いにくかった」と悶々としていたようですが、そういう大事なことを伝えるのは上司の責任だから、そこから逃れちゃいけないと思いますね。
 最近では、部下の言い分を聞いてやる上司が良い上司と考える傾向にあるようですが、上司が部下の心情を慮って何もいえないなんてナンセンスですよ。私はサラリーマン時代、部下を集めて飲みに行き、そこで本音を言ったり、慰めたりするなんてこと一度もしませんでしたね。飲みに行くのは大きな仕事をやり遂げた時や目標を達成できた時くらい。それ以外は、年中部下を叱っていた。そりゃあもう、厳しい上司でしたよ(笑)。でも、厳しく接していた方が部下は早く成長するし、“仲良しチーム”じゃ、厳しい局面を乗り越えていけない。それに、やる気があって伸びる社員は、そういう厳しさに十分耐えられるものです。上司たる者は自信と確信を持たないといけませんね。それに、部下が成長するということは、巡り巡って、その上司や組織が得をすることになるんですから・・・。
 あとは自己管理。歓迎会などで飲みに行く機会が今、多いと思いますが、社会人としては次の日のことを考えて適度なストレス発散をしてほしい。昔はよく、「飲んだ翌日は遅刻をするな」、「二日酔いでも這ってでも会社に来い」なんて言われましたが、そもそも、翌日の仕事に支障が出るほど飲む方がおかしい。
 スポーツ選手は特に、食事から睡眠、練習に至るまで、全てそこに力を注げる選手でないと一流にはなれません。しかし、あまりストイック過ぎて周りが見えなくなるようでもいけない。オンとオフをしっかり使い分ける。人生もしっかり楽しめる余裕がないとね。仕事に厳しく取り組みながら、生活や心にゆとりを持てる人が“真のプロフェッショナル”と言えるのではないでしょうか。
 先は長い。経験は財産です。それに、成功より、むしろ失敗の方が学ぶことは多いものですから、若いうちは失敗を恐れず、勇気を持って様々なことに挑戦してほしいと思います。
 がんばれ、新一年生!