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ウィークリーコラム

 春たけなわ。ゴールデンウィークは、フットサル日本代表の壮行試合が行われるほか、Jリーグでは、「JリーグファミリーJoinデイズ」が開催され、試合観戦だけではなく、ご家族やグループで楽しめる様々なイベントが多数用意されています。この機会に是非、お出かけになってはいかがでしょうか。
 さて、今週のキャプテンコラムは、川淵キャプテンが校庭の芝生化についてお話しします。Jリーグのチェアマン時代から校庭の芝生化を唱えてきた川淵キャプテン。現在、「JFAグリーンプロジェクト」でも芝生化を推し進めていますが、JFAのネットワークを利用して、芝生管理の情報やノウハウを提供する体制をつくるべく、準備を進めています。

校庭の緑化は、「失敗して当たり前」

 先日(4月22日)、東京・小平市の第十三小学校と世田谷区の烏山北小学校に行ってきました。
 東京都は、2006年に発表した「10年後の東京」の中で、「全ての公立小・中学校や都立学校などの校庭を芝生化する」と謳っていますが、小平第十三小、烏山北小ともに、都の助成を受けてそれぞれ、2006年、2007年にグラウンドを芝生にしました。
 東京都の環境局長の話によると、都内にある約1860の小中学校のうち、これまでに70校が都に申請して校庭を芝生にしたそうです。都内に70校も芝生のグラウンドができたのは素晴らしいことですが、まだ全体の4%にも満たないんですよね。初期費用として数千万円という巨額のお金がかかり、その後の維持管理が大変――そんな“芝生神話”が、校庭の芝生化にブレーキをかけさせている要因かもしれません。
 今回、訪れた小平市立第十三小はFC東京と協定を結び、FC東京から芝生の維持管理のノウハウを提供してもらっています(Jクラブが、こういった形で地域に貢献していることをとても嬉しく、誇りに思います)。FC東京の委託で芝生のノウハウを提供しているのが池田省治さん(写真左)。FC東京の小平グラウンドや味の素スタジアム、大宮アルディージャの志木グラウンドなど、数々のスポーツ施設の芝生を管理しているスペシャリストです。
 写真でもわかる通り、真っ黒に日焼けして、元気はつらつ!芝生に懸ける情熱は並々ならず、熱血漢そのものです。芝生の話をしだしたら止まらないという感じで、その日も集まった人たちにエネルギッシュに芝生の管理を説いていました。
 しかも、この言いっぷりがまた大胆不敵(!?)。「芝生の校庭づくりは、失敗したり、はげたりして当たり前」と、バッサリ。経験が浅い中で、校庭を使いながら良い状態にキープしようったって、そう簡単にはいかないと言い切るわけです。
 小平第十三小のグラウンドは、約600人の児童が日々使っており、ちょうど、季節の変わり目のせいもあってか、枯れている部分が多くありました。緑の美しい芝生を想像して行ったので、最初はなんだかガッカリしたんです。しかし、池田氏によると、「大丈夫、もう少しすれば、元気な芝が出てきますから」と、屈託ない。いやぁ、こう断言されると、「そうか、大丈夫なんだな」と、勇気が湧きますよね。
 池田氏は芝生化の際のポイントとして、「その後の維持管理を考えた場合は、スプリンクラーや大型の芝刈り機を設置した方がよい」と言います。確かに、水やりは毎日のことなので、広い面を一気に水まきするにはスプリンクラーは必要不可欠ですね。また、一般的に、猛暑の昼間に草花に水をやってはいけないと言われていますが、「水たまりができて、その水がお湯になってしまうと芝生を枯らす原因になるが、水はけがよければ水やりの時間は問わない。そういう点でも、霧状に散水されるスプリンクラーは必須」(池田氏)だそうです。
 池田氏はこうも言います。「雑草が出ても芝生と同じ長さに刈っていれば、これも立派なターフとなる」と。つまり、校庭には校庭に合った芝生の考え方があるということ。子どもたちが使うグラウンドがJリーグの試合をするような立派なスポーツターフである必要はないわけです。烏山北小でも、「根が張る大きな雑草はひっかかってケガをする危険があるので駆除しますが、多少の草は生えていていい。だから、草取りなど少しも大変じゃありませんよ」と、対応にあたって下さった副校長もおっしゃっていました。
 池田氏は、学校の芝生からJリーグやNFL(アメリカ)のプロ仕様のピッチまで、幅広い知識とノウハウを持っている。“目からうろこ”の情報や前例にとらわれない方法などを色々と教えてくれます。上手く育てられなかったからと、せっかく植えた芝生を剥いでしまった学校もあると聞きますが、池田さんのようなアドバイザーがいたら、管理する学校や地域の人々も心強いですよね。

JFAグリーンプロジェクトで芝生のネットワークづくり

 Jリーグのチェアマン時代から「Jリーグ百年構想」の一環で、校庭や園庭などの芝生化を推進してきましたが、日本サッカー協会でも、「プレジデンツ・ミッション」の中に「グリーンプロジェクト」を掲げ、フットボールセンターの推進と並行して、芝生の校庭や広場づくりにも取り組んでいます。芝生については、そのPRと情報収集にとどまっているのですが、今後は、このグリーンプロジェクトの中に、芝生専門の組織をつくりたいと準備を進めています。
 本来であれば、地域社会に池田さんのように、安く工事する工夫や方法を指南し、その後もきめ細かくアドバイスをしてくれる人がいるのが理想です。しかし、校庭の芝生化となるとまだ緒についたばかりで、難しい部分は専門業者に頼っているところがほとんどでしょう。とはいえ、学校やPTA、地域にも、子どもたちのために芝生の管理に熱心に取り組んでいる人は多くいます。
 JFAとしては、池田さんのような専門家の協力を仰ぎ、我々のネットワークを利用して、芝生管理の知識やノウハウなど様々な情報を提供したい。場合によっては、そういう人たちに現場に出向いてもらって指導してもらえるような体制をつくり、公共施設の緑化を進めていきたいと考えています。
 サッカー界が芝生のグラウンドを推進するとなると、「サッカーのためにやっている」と取られることが多いのですが、それは全くの誤解。我々は、子どもたちをはじめ、老若男女が外遊びやスポーツに親しむことによって、人々の心身の健全な発達に寄与することを目的に活動しています。それが、スポーツ界の義務であり、責任だと思うからなんです。
 今、子どもたちの体力の低下や運動不足が深刻化しています。体力や骨格がしっかりしていないから、長時間、同じ姿勢を維持できず、勉強にも集中できない、あるいは、すぐにキレたり、登校拒否や引きこもりといった問題を抱える子どもが増えているのも周知の通りです。
 実際に芝生化した学校に伺うと、土のグラウンドのときよりも子どもたちが外で遊ぶようになったとか、よい気分転換になるので授業にも集中できるようになった、などという話をよく耳にします。それに、芝生なら転んでもケガが少なく、冬も適度な湿度が保たれるため、風邪を引きにくくするし、夏の猛暑では、ヒートアイランド現象を緩和するといった効果がある。土埃が立たなくなった、水溜りができにくくなった等など、予想以上の効用が表れています。
 都内で初めて芝生にした杉並区の和泉小学校(2002年に芝生化)では、歩行器を使ってしか歩かなかった児童が、校庭が芝生になった途端、クラスメイトの力を借りながらも自分の足で歩いた、なんて感動的な場面を目の当たりにしたこともあります。
 芝生の広場や校庭があれば、子どもだけではなく、高齢者だって外に出たくなるもの。そこにご近所とのコミュニケーションや世代を超えた交流が育まれるようになる。私が子どもだったときと時代は大きく変化し、現代には現代社会に合ったコミュニティの核を築かなければならない。それが、芝生の広場であり、Jリーグが目指す「地域に根ざしたスポーツクラブ」だと思うのです。
 スポーツクラブづくりや校庭の芝生化といった息の長い活動には、池田さんのような情熱を持った人の存在が欠かせません。JFAとしてはこういう人たちを応援し、手を携え、ネットワークを構築しながら、より良い環境づくりを目指していきたいと考えています。