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ウィークリーコラム

 来月に行われるFIFAワールドカップ アジア地区3次予選の残り4試合に向け、日本代表は来週22日から開催されるKIRIN CUPで、コートジボワールとパラグアイとの強化試合に臨み、さらなるレベルアップを図ります。昨日は、そのKIRIN CUPに臨む27名も発表され、日本代表の戦いに期待が高まっています。
 さて、今週のコラムは、川淵キャプテンが“グッド・ルーザー(良き敗者)”について、自らの思いを語ります。

悔しい場面で見せた清々しい笑顔

 今週は、“グッド・ルーザー”についてお話ししたいと思います。
 5月8日~11日に開催されたゴルフの「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」、皆さんはご覧になったでしょうか。福嶋晃子プロが韓国の申智愛(シン・ジエ)と熱戦を繰り広げ、見事、優勝カップを手にしたのですが、私は、惜しくも準優勝となった申選手の態度に非常に感銘を受けたんです。
 申選手は、韓国女子ツアーで昨年2年連続で賞金女王を獲得した期待の若手プレーヤー。3日目からの躍進にタイトル獲得を意識しながら、強い気持ちで臨んでいたと思うのですが、ピリピリした雰囲気はなく、初日からプレーの合間も談笑するなど、終始、友好的な態度でラウンドしていました。
 トップの福嶋と2打差の3位でスタートした大会最終日、申智愛は、3バーディー、2ボギーでスコアを一つ伸ばして通算4アンダーに。一方の福嶋は通算5アンダーの単独首位からスタートし、2番、4番とバーディを奪ったものの、5番で4オン2パットのダブルボギー。18番を終えた時点で申と福嶋は4アンダーで並び、試合はプレーオフに持ち込まれました。
 話が前後しますが、17番で申が逆転可能な短いバーディパットを外した際、何とも可愛らしい笑顔を見せたのを、皆さん、お気づきになったでしょうか。普通なら「しまった!」と悔しい表情をしそうなところですが、彼女は爽やかな微笑を浮かべたんです。それが、とても印象的で・・・。
 そして、プレーオフ。東京よみうりカントリークラブの18番ホールはパー3,202ヤードの名物ホール。非常に難しいんですよ。ここでも福嶋、申ともに4度目までパーの取り合いを続けていました。
 迎えた5度目。ティーショットでカップまで13メールにつけた福嶋、方や申は10メートルにつけて断然有利な立場に。ところが、申はダブルボギーを叩いてしまい、目の前にあった優勝を逃してしまいました。この、ダブルボギーを叩いてしまった後、申はまたしても、17番の時と同じように非常に清々しい笑顔を見せたんです。
 日本で行われるメジャーな大会でしたから、何としても優勝を飾りたかったはずです。そこで迎えた絶好のチャンスだっただけに、それをモノにできなかった悔しさは相当のものだったでしょう。にもかかわらず、あの爽やかな笑顔・・・。悔しさをあらわにするどころか、潔く負けを受け入れ、ボギーを決めた福嶋に対して、きちんと敬意を表わしていた。今回の申選手のような“グッド・ルーザー”を久しく見ていなかっただけに、僕もすごくいい気分になりました。

常にグッド・ルーザーたれ

 サッカーではどうでしょう――。
 これまで、Jリーグなどの試合でプレゼンターとして何度も表彰式に立ち合っていますが、優勝を逃したチームの選手が勝者を心から讃えているのを、最近ではほとんど見なくなったような気がします。
 ユースなどの大会で悔し泣きをするのは初々しさを感じるんですが、残念ながら、トップレベルの試合では、“これぞ、グッド・ルーザー”という選手はなかなかいない。優勝したチームに素直に拍手を送っているのはキャプテンなど、ごく一部の選手だけ。ほとんどが表彰台から目を逸らしたり、ぶっちょう面をしている。特に、大会慣れというか優勝慣れしているチームに多いような気がしますね。負けた相手の気持ちを慮ることができたら、負けても他者に不快感を与えるような態度はしないと思うんですがね・・・。それにファンだって、悔しくとも敗戦を潔く認めて堂々と勝者に拍手を送る選手の姿をみたら、爽快感を持つだろうし、よりシンパシーを感じると思うんです。
 FIFAクラブワールドカップと、天皇杯やナビスコカップなど国内の試合を比べてみると、世界一流の選手は、勝者を温かく讃えています。そういう一面を見ても、日本のトップ選手が世界一流から学ぶべきところは、まだまだたくさんありますね。
 一生懸命にプレーしているんだから誰だって負けたら悔しい。しかし、そこでスポーツマンシップ溢れる態度をできるかどうかで、一流選手かどうか測られるのではないでしょうか。

勝利至上主義の功罪

 残念なことに日本は、グッド・ルーザーが育ちにくい世の中になってしまいました。ベストセラーとなった『国家の品格』にも記されていますが、子どもたちに対して、社会も大人もきちんとした精神教育を真剣にしていない。それに、地域社会の交流が希薄になってしまったことで、他者や弱者を思いやる心、優しさや協調性、連帯感など、社会生活をするのに必要な人間性を自然に育める機会や場が非常に少なくなってしまった。
 そこで、その役割を果たせるのはスポーツなんじゃないかと、私は思うんです。
 スポーツは体を丈夫にするだけじゃなく、目標に向かって努力する意欲を培えるし、仲間意識や責任感、犠牲的精神、リーダーシップ、社会性といったものを育む。情操教育にとって非常に価値あるものだと思います。
 しかし、一つ、問題がある。スポーツに限らないのですが、世の中全体に勝利至上主義が蔓延してしまっていること。もちろん、勝利を目指すこと自体は悪いことではありません。向上意欲そのものにつながる意味からも必要ですね。しかし、勝利至上主義は、ともすると多少ずるいことをしても、あるいはアンフェアなプレーをしてでも、勝ちさえすれば許されるという誤った意識を生んでしまう恐れがある。
 最近、子どもの試合などでも、大人が一生懸命になるがあまり、平気で相手に野次を飛ばしたり、応援しているチームに対しても子どもの失敗を責めてしまう指導者や親が多くいるようです。それでは、スポーツマンシップを育むどころか、自立心や意欲、失敗を恐れない強い気持ちまで削いでしまいます。大人は、子どもたちが勝敗を自分の中で消化し、うまく処理できるように手助けをしてほしい。それは、他者の失敗を許す気持ちや、相手の勝利や成功を喜んであげられる包容力を育むことになるのですから・・・。せっかくスポーツをしているのだったら、勝つ以上に大切なものを学ばせたいですよね。
 子どもは大人の態度を見て学びます。親御さんや指導に携わる人たちはもちろん、子どもたちの憧れの存在であるプロの選手もそういったことまで配慮してほしいと思います。
 勝っても負けても、相手を思いやれる大きな心と強い精神力――。トップレベルの選手こそ、良き勝者であり、良き敗者でほしいと願っています。