JFA|日本サッカー協会  Japan Football Association
JFAへの登録リンクENGLISHRSS

一覧に戻る
ウィークリーコラム

 元日本代表選手の中田英寿氏の呼びかけによる「+1 Football Match」が6月7日、横浜・日産スタジアムで行われました。
 このエキシビジョンマッチは、多くの人々に地球温暖化や貧困といった世界の現状を知ってもらい、行動を促すことを目的に行われたものです。日本サッカー協会の釜本邦茂副会長をはじめとする元日本代表選手、現役では中田浩二選手、海外からは元カメルーン代表のエムボマ氏や元イタリア代表のスキラッチ氏など、錚々たる顔ぶれが集まりました。
 今週のコラムは、川淵キャプテンが、中田氏をはじめとする選手OBへの期待を語ります。

 まずは7日のオマーン戦。オマーンは本来の実力を発揮し、2日の試合とは全く別のチームに変貌していました。日本としてはあの酷暑の中で1-1で引き分けたことはまずまずでしたが、この試合で、大久保嘉人選手がゴール前で相手GKに対して報復行為をしてレッドカードで退場、明日(14日)のタイ戦に出場できなくなってしまいました。16日にはFIFA規律委員会が行われ、追加処分が下されることになるでしょう。
 サッカーに限らず、スポーツではどんな状況においても決して仕返しをしないというのが鉄則。大久保選手の行為は断じて許されるものではなく、厳しく糾弾されるべきだと思っています。
 1986年のFIFAワールドカップメキシコ大会。ディエゴ・マラドーナを擁するアルゼンチンが優勝した大会で、皆さんご存知の通り、アルゼンチンはイングランドとの準々決勝でマラドーナ選手の「神の手」によるゴールで勝利し、準決勝進出を決めました。
 当時アルゼンチン代表のアシスタントコーチを務めていたパチャメ氏(97年アビスパ福岡の監督として来日)から聞いた話によると、この「神の手」のあと、アルゼンチンでは子どもたちの間で手を使う反則行為が横行し、それを正すのに随分苦労したということです。
 プロ選手は子どもたちの憧れの存在であり、それだけに大きな影響力を持っています。Jリーガーも日本代表にもその自覚をしっかり持ってもらわなければなりません。大久保選手は今回の行為を猛反省し、代表選手としての品格と社会的責任をしっかり身につけてほしいと思っています。

中田氏の今後の活躍に期待

 さて、今日の本題に入りましょう。
 中田選手の呼びかけによる「+1Football Match」が6月7日、横浜の日産スタジアムで開催されました。試合には、国内外から錚々たる新旧選手が集まり、観客も6万3143人と、大きな盛り上がりとなりました。
 このエキシビジョンマッチを開催するにあたっては早い段階から聞いており、全世界を視野に入れたヒデらしい構想だと、非常に感銘を受けました。もともと意識の高い選手でしたが、引退後、世界各国を訪れて見聞を広げたことが、彼の進むべき方向をより明確にさせたのではないかと思っています。
 どんな国に行っても、サッカー選手がサッカーを教えに行くと聞けば、子どもたちはもちろん、その両親たちなど、村や町総出で大勢の人が集まり、言葉が通じなくても、宗教や文化が違っても、みんなが楽しく交流を持てる。ヒデは各国を訪れ、サッカーの持つその影響力の大きさをあらためて認識し、「何かしなくては」と強く思ったのでしょう。
 アフリカには、貧困のほか、AIDSや感染症などにあえぐ国が数多くあるのは皆さんもよく知るところだと思います。感染症については、様々なワクチンが開発され、ユニセフなどで十分に備蓄されているようですが、いざ予防接種を実施しようとしても、その必要性について無知だったり、注射に対する拒否反応も大きく、なかなか人が集まらないという現状があるようです。しかし、サッカー活動と併せて予防注射を接種したり、啓蒙活動をするとなれば、多くの人が集まり、大きな効果が得られます。
 今回のヒデのエキシビジョンマッチは、世界の注目が集まる「アフリカ開発会議」に合わせて開催することで、より多くの人に地球環境の悪化や貧困など、いま地球で起こっている様々な問題を知ってもらい、自分たちにできるアクションを起こすきっかけにしてもらいたいと企画されたもの。彼の熱い思いに突き動かされた多くのサッカー仲間が、はるばる海を越えてきてくれたことに、私も心から感謝しています。
 試合は、JFA副会長の釜本邦茂監督率いるジャパンスターズとジョゼ・モウリーニョ監督(ポルトガル)率いるワールドスターズが対戦し、2-2の引き分け。ヒデも約2年半ぶりに日本の大観衆の前でプレーし、充実した一日を過ごしたのではないでしょうか。集まった多くの観客の皆さんにもヒデの想いが伝わったと思っています。
 久しぶりに彼のキレのあるプレーを見て、「現役復帰か!?」あるいは「代表監督か!?」と期待した人も多くいると思います。私が思う限り、彼は、直接サッカーに携わるというのではなく、もっとグローバルな視点に立ち、サッカーを通じた社会貢献や国際親善に関心を持っているのではないかと思います。個人的には、彼のような才能も経験も豊富な人材が、協会の幹部として経営に携わってくれないかという期待はありますが、彼はもっと広いところで社会に役立ちたいと考える人でしょうね。
 ともあれ、彼が国際貢献やチャリティなどを積極的に行うことによって、少しでも世界平和に貢献できる。それが、日本サッカーの地位を高め、ひいては日本人のステイタスを向上させることにもなりますので、今後も、これまでの経験を生かし、見聞を広め、世界を舞台に大いにその才能を開花させてほしいと願っています。

経営者を目指すサッカーOBが出てきてほしい

 中田ヒデや北澤豪氏のように、社会的な活動をしたいと考えるのは稀有な例で、ほとんどの選手が引退後は指導者の道を目指そうとします。それはそれで、もちろんいい。サッカー選手としての豊富な経験がサッカーの発展に生かされるんですからね。
 しかし、日本サッカーの実力が上がり、ビジネスの分野でも社会貢献の面でも大きな力を持つようになった今、世界平和とまではいかなくても、クラブ経営や協会経営を目指し、スポーツを通じた社会貢献活動に力を発揮したいというOBがもっと出てきてもいいんじゃないかとも期待しているんです。
 僕が選手の頃はアマチュアでしたから、サラリーマンとして仕事をする傍ら、サッカーをしていたという時代。会社できっちり社員教育を受け、TQC(トータル・クオリティ・コントロール)や、ものごとに関する定量的・定性的な把握や分析といったことを徹底的に叩き込まれました。そういった組織運営や経営の手法を学んだことが、JリーグやJFAのトップとして組織マネジメントに生かされたのは言うまでもありません。
 学校を卒業してすぐにプロになった選手が、引退後直ちに組織の経営に携われるかと言ったらそれは不可能で、あらためて勉強する必要があります。その上で、サッカー選手としての経験を生かすことができれば、それは鬼に金棒だと思いますね。
 ベッケンバウアー(FIFA理事)やプラティニ(UEFA会長)に代表されるように、世界のサッカーでは選手として名を馳せた人材が経営者として顕著な活躍を見せています。日本でも、選手を経験した若い人材がJFAやJリーグなどの経営の分野に進出するようになれば、もっと変わっていくと思うんです。少なくとも「スポーツバカ」なんて揶揄されることもなくなるでしょう。
 日本サッカー協会では、「JFAスポーツマネジャーズカレッジ(SMC)」という講座を開講しています。8ヶ月もの長期にわたってクラブ経営のノウハウや専門的知識を学ぶもので、主にJFAやJリーグ、Jクラブ、都道府県サッカー協会などの職員、地域のクラブの運営に携わる人が受講しています。Jリーグも33クラブに増え、そのほかJリーグを目指して活動しているクラブは全国に40も50もあると言われています。
 こういった現状で、スポーツクラブや施設の運営に携わる人材の育成も急がれており、今後は今以上に、専門的な知識や経験を持った人が求められるようになるでしょう。選手経験者の中からも経営を目指す人が増え、スポーツビジネスを学びにアメリカに行くとか、ヨーロッパのクラブチームで学んでくる、あるいは、SMCや大学で勉強したいなんていうOBがどんどん出てきてほしいと願っています。そうなれば、スポーツの地位が向上し、スポーツのみならず、ビジネスや教育、社会貢献、国際親善の分野でもっともっとその価値を発揮できるのではないでしょうか。