JFA|日本サッカー協会  Japan Football Association
JFAへの登録リンクENGLISHRSS

一覧に戻る
ウィークリーコラム

 6月14日、タイ代表に勝利した日本代表は、グループ2位以内が確定し、FIFAワールドカップ アジア最終予選進出を決めました。明後日は、3次予選の最終戦となるバーレーンとの試合が埼玉スタジアム2002で行われます。岡田監督率いる日本代表はアウェイでの敗戦を雪辱すべく、必勝の構えで臨みます。
 さて、3次予選突破に一安心の川淵キャプテンは、7月に母校で実施する「夢の教室」の準備に余念がありません。夢先生を務めるにあたってどんな心持ちでいるのか・・・。今日のコラムはその抱負を語ります。

母校で夢先生

 皆さん、JFAこころのプロジェクトをご存知でしょうか。このコラムでも何度か紹介してきましたが、ついに、私の番がやってきました。
 これまで何度も協会のスタッフや記者の人たちに「キャプテンは夢先生をやらないんですか?」なんて訊かれていたんですが、なかなか勇気が出ず、延ばし延ばしにしてきたのが正直なところで・・・(苦笑)。そこで、キャプテン退任を前に、母校である大阪・高石小学校で「夢先生」という大役を務めることになりました。
 母校の高石小学校は、恩師である吉岡たすく先生と出会ったところ。元来、僕は何をやるにも三日坊主だったのですが、吉岡先生のすすめで児童劇に夢中になり、小学5年から高校生まで演劇を続けました。「自分の人生は自分でしっかり考えなさい」というのが先生の口癖で、そのお陰で自立心旺盛に成長したのではないかと思っています。
 僕にとって吉岡先生が夢先生だったように、僕もなんとか子どもたちの心に触れられるような授業をして、彼らの思い出の中に「キャプテンの夢の教室」が刻まれるといいなと願っています。周りの期待・・・といっても関係者や番記者の皆さんのそれでしかないのですが、その期待が大きいだけに、上手くできるか、今の段階ではちょっと心もとないですね。しかも、他の夢先生と同じ基準で採点されるわけですからね。願わくは平均点以上であってほしいと思っています。

心を込めて話す

 元Jリーガーらによる「夢の教室」は、昨年のスタート時から5~6回ほど視察しました。プロ選手として夢を叶えた経験談や印象に残るメッセージの数々、授業に取り組むひたむきな態度、子どもたちへの気配りなど、どの先生の授業をとっても胸を打つ素晴らしいものでした。ところが今度自分が先生を務めるとなると、楽しみである反面、不安もまた大きくて・・・。
 Jリーグのチェアマン時代から、日本全国で相当数の講演を行ってきましたが、大人を相手にした講演とは全く異なり、今回はかなりの緊張感とプレッシャーを感じています。大体、講演会では周到に準備したことなどないんですが、夢先生となると悠長に構えてはいられない。どこに話のポイントを置くか、時間配分は大丈夫か、子どもたちがわかるよう言葉づかいにも気をつけなければならない。いやいや結構大変なものだな、とあらためて実感しています。
 僕は今、71歳。これまで夢先生を務めた人たちの優に倍の歴史があるわけで、その長い人生を振り返ると、夢の数も、失敗の数も、挫折の数も、彼らの倍以上・・・その中でどんな経験談が子どもたちの心を捉えられるのか、そこを考えるのが難しい。プロジェクトのスタッフたちにも相談に乗ってもらっているんですが、大人が興味を持つことも子どもたちにとってはそう面白いことではない場合があるし、またその逆もあるわけで、さっぱり予測できないんですよね。う~ん、本当に難しい。
 まあ、あれこれ考えすぎても良くないし、子どもたちのリアクションばかりを気にするようだと本筋から逸れてしまうので、多くの先輩夢先生たちがそうだったように、技巧に走らず、とにかく、一生懸命に伝えることで、子どもたちの心に接近できるのではないかと思っています。
 いみじくも、このプロジェクトの発案者である私としては、優秀な夢先生としてプロジェクトの歴史に名を刻みたいなんて余計なことを思ったりもするんですが(笑)、先輩の夢先生たちには叶わないかもしれませんね。少なくとも、きちんと授業ができるよう、万全な準備をして臨むことにしましょう。
 まずは、孫を実験台にしてリハーサルをやってみるのがいいかな。とにかく、かつてない緊張感で授業にあたる自分を想像すると、身の引き締まる思いがしますし、またその一方ですごくワクワクしています。

自分を育ててくれた母校に恩返し

 Jリーグのチェアマン時代から「校庭の緑化」を訴えてきた僕としては、自分が育った母校の校庭が芝生でないというのは非常に不本意。大事なことをやり残したような気がしていて、もし、母校が校庭を芝生化するということになれば、スプリンクラーの設置など、その費用の一部を寄付したいと考えています。そうなれば、芝生化のサポートと夢先生の両方を実現することになるので、大きな夢がひとつ叶えられるのではないかと期待しています。
 芝生化するにあたっては、学校やPTA、地域、行政などの管理体制がしっかりしていないと継続していかないので、そこで了承が得られれば、高石小学校も立派な芝生の校庭になることでしょう。
 今は埋め立てられ臨海工業地帯に変貌してしまった高師浜も、僕が子どものころ(60年以上も前になりますが)は、白砂で有名な海水浴場でした。夏になるとふんどし一丁でよく遊んだものです。泳いだり、素潜りではまぐりを取ったり、漁師の息子の友達からは船のこぎ方を教えてもらったりしました。もちろん、取っ組み合いのけんかも・・・。そういう意味では、僕にとって高師浜は思い出がたくさんつまった場所だったんですよね。そういう遊び場がなくなった今、子どもたちは故郷にどんな思い出を持つのかわかりませんが、その変わりようを見る限り、なんだか侘しい気持ちがします。だからこそ、学校の校庭が芝生になり、走り回ったり寝転んでお喋りしたりと、子どもたちにとって体と心のふれあいができる場所であってほしい。僕たちの頃の海岸や空き地が友情や社会性を育んだように、現代の子どもたちにとって、芝生の校庭がそういう役割を果たしてほしいと思っています。

問題のある学校で夢の教室

 先日、こころのプロジェクトでは、学級崩壊やいじめなどの問題を抱える学校で夢の教室を実施しました。
 そういった学校での実施については、昨年のスタート時、「JFAこころのプロジェクト推進室」の犬飼基昭副本部長(Jリーグ専務理事)からも宿題として挙がっていたことなんですが、手嶋秀人室長は慎重に考え、はじめのうちは実施するにあたって、新たに児童心理学などの勉強をするべきじゃないかとまで考えていたようです。しかし、“技巧より熱意”というこれまでの方針は変えず、自信を持ってやることで、十分子どもたちに良い影響を与えられると思い直し、今回の実施に至ったそうです。
 その学校は、授業のベルが鳴っても児童が席に着かないといったことや、教師への暴言、いじめなどが横行したことがあったといいます。
 夢先生として訪れたのはベテランの安永聡太郎先生とアシスタントの平間智和先生。問題を抱えるクラスだと知っていたので、安永先生はいつもよりは若干、厳しい心持ちで授業に臨んだようです。もちろん、元気でひょうきんな安永先生のキャラクターはいつも通り。それが子どもたちの心を捉えないわけがないですよね。しかし、最初のうちはしらけたムードが漂い、発言する子どももなく、これまでのクラスとは随分、雰囲気が違っていたようです。
 安永先生は子どもたちと心が通い合うよう、一人ひとりに丁寧に声をかけながら授業を進行させました。すると、時間が経つごとに徐々にクラス全体が熱気を帯び、子どもらしい表情を表わすようになったといいます。いつものクラスと打って変わって、クラス全員が先生の話に耳を傾け、真剣そのもの。もちろん、いじめっ子と思われる児童も目を輝かせて聞いていたそうです。
 安永先生もそうでしょうが、私もまさに、“我が意を得たり”という感じ。問題のある学校や児童にこそ、この「夢の教室」は大きな効果をもたらすことができる。このプロジェクトに揺るぎない自信を持ちました。
 まだ児童から「一言シート」が戻ってきていないので、彼らの心にどんな変化が生まれたかは、今の時点で具体的にわかりませんが、子どもたちの返事を楽しみにしているところです。
 学級崩壊やいじめは子どもだけの問題ではありません。最近では、「いじめをする子に関わるな」ということは言っても、「いじめられている子どもを助けなさい」と諭す親が少なくなったと聞きます。正義感を持つことや、卑怯や弱いものいじめを許さないといった精神性が失われつつあることを嘆かわしく思います。その一方で、正義感を持って立ち向かった人が傷ついたり、殺されてしまうような社会の実態があることも事実。夢を持つことが、子どもたちの健全な心の成長を促し、それが、いじめや自殺を防止する大きな力となることを願ってやみません。
 私が夢先生として、どこまで子どもたちの心に踏み込めるか――。子どもたちの健やかな成長を願い、心を込めて「夢の教室」を行いたいと思っています。

※写真はイメージです。
※JFAこころのプロジェクト詳細はこちら